「突然死の原因は『ドッグフード』だった!?」

センセーショナルなタイトルですよね。

気になって、思わずポチッとした方、多いんじゃないでしょうか。これ、じつはネット記事上に表示されたドッグフードの広告だったんです。うわぁ……絶対やらかしてるなぁ……と思いながら、筆者はクリックしました。

この広告はペットブロガーを名乗る人物の体験談になっていました。

ある日、愛犬がぐったりしていたので、すぐ動物病院に連れて行ったものの、その場で亡くなってしまったそうです。愛犬は昨日まで元気いっぱいだったとのこと。
突然死の原因を獣医師に聞いてみたところ、「おそらくオイルコーティングが原因でしょう」という返答が。

オイルコーティングとは、ペットフードの粒の表面に塗布する油脂のことです。特別なことではなく、ごく一般的に行われています。その獣医師いわく、オイルコーティングは犬の健康に害を与えるそうです。

そして、こうも言っていました。

「(オイルコーティングは)犬の嗅覚を刺激して食いつきを良くするため。けっして犬の健康のためではない」

すごい獣医師ですね!

犬の突然死は、心疾患、消化器疾患、中毒、感染症などさまざまな原因が考えられます。持病があった、急性中毒を引き起こすものを誤飲した、というならわかりますが、解剖もせずに「オイルコーティングが死因」とピンポイントで特定しているわけですからね。もはや神がかっています。

記事ではオイルコーティングがなぜ犬の健康に害を与えるのか、そして死亡原因になったのか、まったくふれられていません。おいおい、そこいちばん大事なんですけど。

さらに獣医師はこう続けます。

「犬の死因ランキングも、毎日のドックフードが原因になっているのものがほとんど」

記事を書いたペットブロガーは、そんなことも知らないとは飼い主失格だと嘆きます。ああ、私なんて長年猫と暮らし、ペット栄養管理士やペットフード販売士などの資格も持っているのに、そんなことも知らないなんて、飼い主失格どころか、もはや人間失格だ……

いや、知らんがな!

まず、オイルコーティングは確かに食いつきを良くするという目的があります。でも、それってダメなことなんでしょうか? 嗜好性が高いフードほど、犬の食欲は増進するし、喜んで食べるわけです。もしオイルコーティングが健康を害するというなら、その科学的根拠を提示すべきです。それをせず「危険!」「死因になる可能性がある」といった論調にするのは、非常に無責任ですし、お話になりません。

オイルコーティングに使われている油脂は、前述の通り嗜好性を向上させるほか、「エネルギーを供給する」「健康維持のために不可欠な必須脂肪酸を供給する」「脂溶性ビタミン(A、D、E、K)の吸収率を高める」といった役割もあります。適量に摂取すれば、メリットがあるわけです。

次に、犬の死因ランキングですが、「動物病院カルテデータをもとにした日本の犬と猫の寿命と死亡原因分析」によると、1位は腫瘍、2位は循環器系の疾患、3位は泌尿器系の疾患です。これらの病気と食生活は、関係があると言われています。ただし「ドッグフードが原因」と断定するのであれば、その科学的根拠を提示すべきです。

このような話をすると「ペットフードメーカーの回し者」とか「大手企業のロビー活動により危険な原材料が黙認されている」などど言い始める人がいるんですが、陰謀論は科学的な議論ができない人の常套手段です。

万が一、上述したような発言をする獣医師に出会ったら、超テキトー&無責任なので、診療を頼まないほうが無難です。

結局、件の広告というのは「ノンオイルコーティング」をウリにしたドッグフードの広告だったわけです。「○○は危険」と不安を煽る宣伝は、ドッグフードだけでなくキャットフードでもよくあります。今回のケースは粗が目立ちますが、信頼性が高そうに思わせる広告もあります。広告を鵜呑みにせず「本当にそうなのか?」と疑問を持ったり調べたりすることを忘れないでくださいね。